適当な紙切れに乱雑な字で書かれ、輪ゴムで適当にまとめらて居る紙束。入学以来一度も送付されていないらしい……
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【中の人からの注意】
これを読んでどんな気分に陥ってもわたしゃ一切責任持てません。
ついでに言うとへったくそなんでシクヨロ。
いやいや、はっはっは。後、オコンナイデネ?(可愛ぶって誤魔化そうとして見る)
これを読んでどんな気分に陥ってもわたしゃ一切責任持てません。
ついでに言うとへったくそなんでシクヨロ。
いやいや、はっはっは。後、オコンナイデネ?(可愛ぶって誤魔化そうとして見る)
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さて、下方を見るんだ。そう、下だ。地面の方を見給え。
何せ君は今虚空に浮かんでいるのだから。
故に左右前後を見た所で実のある風景は見えない。せいぜい雲や空が見える程度だ。それもまた詩的ではあるが、余り面白い見物とは言えないね。だから今は下を見……
……ああ、落ち着いてくれ。落ち着いてくれ。別に君は死んだ訳じゃない。ゴースト何某になった訳でもない。だから、その……ああ、もう面倒だ。ばらしてしまおう。
これは夢だ。
……納得したかい?
と言うか納得してくれ。お願いだから、あまり時間に余裕がある身では無いのだよ僕は。
さあ、兎も角見給え……
ごめんなさい
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
少女が見えるね。年の頃は3~4歳と言ったところだろうか、瞳が少しばかり小ぶりだが、基本的に中々大人しそうな娘さんだ。幼稚園の帰りなのだろう、いささか没個性な園児服を着ているが、それでもお下げを飾る二つのリボン、帽子や鞄、服につけた沢山の飾りが、彼女のお洒落さを物語っている。と言うかちょっと華美だね?と言うか過飾だね?ちょっぴり将来が心配になる派手さだね?まあ僕はそれが杞憂だと知っているけど。
……まあ、それはそれとして、彼女はいったい何をしているか。興奮した面持ちで目の前の人影に何某かを熱弁している。ちょっと失礼して横から聞いてみよう。何、言うまでも無く僕らの姿は彼女には見えない。安心し給え。
どれどれ……
『あのね!あのねあのね!だからひるねえちゃはおひいさんで!いのねえちゃはまおさまで、ひょこねえちゃはめがみさまでね!それでね!あのね!!……』
……うん。僕が悪かった。悪かったからそんなに途方にくれた顔をしないでくれ。
予想以上の支離滅裂さだ。これは予定外だ。全く情けない…。
しかたない、いささか残念ではあるが此処は不肖この僕が彼女の話を説明しよう。
ん?ああ、うん。その通り。僕はこの夢の内容を全部把握しているよ。
何せ此処は僕の家で檻だ。
さあ、そんな事はどうでも良い。彼女の話に戻ろう。
彼女はね、まあ要するに『将来の夢』の話をしているのさ。
幼稚園で、と言うか町の催しでそう言うイベントがあってね、彼女はそこで沢山の友人の『将来の夢』を聞いた。そして幼いながら思った、『自分は将来何になろうか』と。
恐らく生まれて初めてこの命題に当たったのだろうね。他の人の様にそうそう即断で『御姫様』とか『大魔王』とか『女神様』とか決めれるわけも無く、少女は悩み、悩み、悩んだ挙句、大好きなお父さんに相談する事に決めた訳だ。
お父さん。
そう、少女の前に立っているのは彼女の父親だ。青いスーツをピシリと着こなしたこの男は、鋭いガラス細工の様な目を細め、娘の王様だの宇宙大帝だのトンチキな言葉の飛び交う『相談』を真剣な顔で聞いている。
本当に真剣な顔だろう?あれは嘘じゃないんだ。本気だよ。彼はいつもそう、相手が何歳だろうが何だろうがいつもあれだけ真剣だ。例えば郵便局を通った時、突然ポストが投函口を蠢かせ『背中が痒いんです』と訴えて来たなら、至って平然と背中を掻いてやった挙句、今後背中が痒くなった時に向ける対策について相談に乗りかねない。そんな男だ。
まして今の相手は『大切な娘』だ。彼は今、真剣だ。真剣に『娘の人生』を考えている。
そこに嘘は無い。微塵の嘘も無い。覚えて置いて欲しい。
彼は本気で『少女の幸せ』を考えている。
どうか忘れないで欲しい。それが、それこそが……
『……カオリ、其処を御覧なさい』
男はようやく口を開き、少女の傍らの地面を指差す。
少女はしゃがみ込み、父親に示された地面を見る。
其処には蟻の行列がある。
『この蟻達が何をしているか、わかりますか?』
『……?』
少女は首を振る。
『これ等は、女王蟻の為、巣の為に餌を運んでいるのですよ』
『……エサ?ごはん?』
男は頷く。
『そう、彼らは働き蟻。です。己に課せられた仕事をしているのですよ』
『……しごと?』
男は頷く。
『そう、仕事です』
我が意を得たりと、男は頷く
『彼らは仕事をしているのです』
プチン
奇妙な音が鳴る。
一糸乱れず列を成していた筈の蟻達が突然、蜘蛛の子を撒き散らす様に逃げ惑う。
男の指が、一匹の蟻を潰している。
『……パパ!?』
うろたえる少女。
『御覧なさい。カオリ』
男は、眉一つ動かさない。
平然と一匹の蟻を指差す。
其処にいる蟻は、逃げ惑いつつも、未だ飴の欠片を掲げ持っている。
『この蟻は及第点です』
『…?……!?』
少女には理解できない、父親が何を言っているのかが。
『蟻達は仕事をしていたのです』
父親は眉一つ動かさない。
『餌を運ぶと言う仕事を』
ガラス細工の様。綺麗だなと少女が羨んでいた父親の瞳には、何も映っていない。
『彼らはその仕事を放棄した』
プチン
プチン
プチン
プチン
プチン
プチン
プチン プチン
プチン
プチン プチン
プチン
プチン
プチン
プチン
プチン プチン
プチン プチン プチン
プチン
プチン プチン
プチン
プチン
プチン プチン プチン プチン
プチン
プチン
プチン
次々と潰されていく蟻達。
少女の顔は今や蒼白。
父親の顔は。
瞳は
ガラス細工等ではない。
少女は気づく。
ようやく気づく。
これはガラス細工などではない。
これは
不意に、父親が蟻を潰す手を止める。
そして指差す。
『この蟻は合格です』
指差された先には、仲間の死骸を踏み越え、餌を運び続ける一匹の蟻。
その蟻がどうして当たり前の危険を無視したのか、それは分からない。
ただ、男はそれを、愛する娘に、大切な事、を伝える為の例示とした。
愛する娘に。
大切な事を。
何よりも大切な事を。
少女の幸せを想って。
何も映さない筈のその瞳。
しかしその瞳には今確かに。
愛情が
慈しみが
思いやりが
『いいですか、カオリ。良くお聞きなさい』
普段の淡々とした声とは似ても似つかない。
少女が、聞いた事も無いほど優しい声。
仕事狂いの父親が、不意に見せた愛情。
愛情。
『……!…………っ!!……ゃ………ゃぁ………っ!!』
子供と言うものは思う以上に敏感で、そして聡い。
イヤイヤをして、父親を拒絶しようとしている。
涙を浮かべ、必死に逃げ出そうと。
『大好きなお父さん』が今どれだけ致命的な事を言おうとしているのか
『大好きなお父さん』が今どれだけ致命的な宣言を執り行おうとしているのか
『大好きなお父さん』が今どれだけ致命的な場所に自分を放り込もうとしているのか
いや、既に
当の昔に自分は
『其処の中心』に立っていたのだと言う事実に
気づいたから
気づいてしまったから
少女は逃げれない。
腰をペタリと地面に着け
全身はおこりの如く震え
涙は雨の如く滂沱と流れ
大好きなお父さんの言葉を
大好きな大好きなお父さんの言葉を
大好きな大好きな大好きなお父さんの言葉を
「カワイソウニネ。トックニテオクレナンダヨ。キミ」
『カオリ、貴女の腹中に居る蟲。それらはこの蟻と同じです』
先ほど指差した『唯一逃げなかった蟻』を指に摘み、父親は語る。
『蟲、使役される蟲。分かりますか?従うのではありません。仕えるのでもない』
逃げようと足掻く蟻。逃がさない。少女と同じく、蟻は逃げれない。
「クスキ家?アア、あそこニハゼッタイカカワラなイホウガイイぜ」
『従うのは奴隷だ。仕えるのは狗だ。それがいけない訳ではない。ですが我々は違う』
ゆっくりと指に力が込められて行く。蟻は、蟻はゆっくりと歪み、潰れて行く。
「別にオレだけジャナイサ。あイツラ《分家》ドモは、誰からモ忌避されテル」
『蟲に意思は必要無いのです。蟲に個は必要無いのです。蟲に自分など要らない』
プチリ。
「手強いかラ?いやいヤそうジゃなイ。そう言う意味じゃ寧ろアソコは落ち目サ」
『ただ命令の通り行えばよい。与えられた仕事をこなせば良い。単純な事です』
その目はガラス細工等ではない。
虫の単眼。
何も浮かばない筈のその瞳に、今、慈愛が溢れている。
「いやア、だかラさ。やツ等が嫌われてル理由ってのはモット単純ナンダよ。」
「つまリあイつ等は…」
『【使われる】事、其れが蟲に望まれる事。私達が取り組むべき事』
『ですからカオリ…』
イヤダ、ヤメテ。ヤメテヤメテヤメテ!ヤメテヨパパ!!
オネガイダカラ、オネガイダカラオネガイダカラおねがいだからお願いだから!!!
「おぞましいんだ」
『貴女も、きっと、そんな立派な【蟲】にお成りなさい』
「カワイソウニネ。トックニテオクレナンダヨ。キミ」
──────────────ブチン──────────────
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
さて、真っ暗だね。
困った物だ、折角の見物が最後の最後で停電とは片手落ちそのものだよ。
ああ、すまない。本当にすまないね。『彼女』が目を覚ましてしまったんだ。もう僕にはどうしようもない、あの後の展開はどうか君の想像力で補って欲しい。
ん?どうしたのかな?そんな顔をして。
フフフ、この見物はひょっとしてお気に召さなかったのかな?だとしたらとても残念だ。
僕などは最高に傑作な喜劇だと思って……
おっと、止めてくれ。すまない止めてくれ。気を悪くしたなら謝る。
ごめんなさい。どうか拳を収めてくれ。この通りだよ。
これはしたり、すっかり気分を損ねてしまった様だね……。
ま、でも安心し給え!どうせ此処での記憶は残りやしないんだから。
気分の悪さもスポーンとどこぞの楽園あたりに吹っ飛んで行って……
って、何を驚いているんだい?当たり前の話だろ?
これは夢だぜ?君は夢の記憶がそんなに長く残ると思っているのか?
ましてこれは君の夢じゃない。ぉ、彼女の夢だ。
目が覚めればあっと言う間に夢が幻、霞と消える運命ってね。
何で彼女の夢を君が見ているかって?
ははん。そんな事にゃきっと大した意味はないさ。彼女と友達だからとか、知り合いだからとか、心配してたからとか、前世の因縁だとか、知らぬ間に髪の毛が体にくっ付いてたからとか、好きなように推測するがいい。
ああ、でも最低条件は一つあるね。
手前、どっかで彼女の書き物を読んだんだろ?
その辺の紙切れに殴り書いた、輪ゴムで留められた、送付する気のサッパリない
あの有名無実の定時報告書を。
其れ位かね。其れ位さ。
さあ、君も帰り給え。目を覚まし給え。
此処は俺の家で澱だ。手前が何時までも居るべき所じゃない。
ヒャハハ、つーかいい加減起きねえと授業に遅れちまうぜ?
そして全てを忘れろ。
忘れな。忘れてくれ。忘れやがれってんだ。
それじゃあな
あばよ。
……
……あ、あと……最後に………さ、ええと……その……
ありがとう
《そう言って、少女は気まずげに、はにかむ様に、淡く、儚く笑った》
【Awaking】
さて、下方を見るんだ。そう、下だ。地面の方を見給え。
何せ君は今虚空に浮かんでいるのだから。
故に左右前後を見た所で実のある風景は見えない。せいぜい雲や空が見える程度だ。それもまた詩的ではあるが、余り面白い見物とは言えないね。だから今は下を見……
……ああ、落ち着いてくれ。落ち着いてくれ。別に君は死んだ訳じゃない。ゴースト何某になった訳でもない。だから、その……ああ、もう面倒だ。ばらしてしまおう。
これは夢だ。
……納得したかい?
と言うか納得してくれ。お願いだから、あまり時間に余裕がある身では無いのだよ僕は。
さあ、兎も角見給え……
ごめんなさい
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
少女が見えるね。年の頃は3~4歳と言ったところだろうか、瞳が少しばかり小ぶりだが、基本的に中々大人しそうな娘さんだ。幼稚園の帰りなのだろう、いささか没個性な園児服を着ているが、それでもお下げを飾る二つのリボン、帽子や鞄、服につけた沢山の飾りが、彼女のお洒落さを物語っている。と言うかちょっと華美だね?と言うか過飾だね?ちょっぴり将来が心配になる派手さだね?まあ僕はそれが杞憂だと知っているけど。
……まあ、それはそれとして、彼女はいったい何をしているか。興奮した面持ちで目の前の人影に何某かを熱弁している。ちょっと失礼して横から聞いてみよう。何、言うまでも無く僕らの姿は彼女には見えない。安心し給え。
どれどれ……
『あのね!あのねあのね!だからひるねえちゃはおひいさんで!いのねえちゃはまおさまで、ひょこねえちゃはめがみさまでね!それでね!あのね!!……』
……うん。僕が悪かった。悪かったからそんなに途方にくれた顔をしないでくれ。
予想以上の支離滅裂さだ。これは予定外だ。全く情けない…。
しかたない、いささか残念ではあるが此処は不肖この僕が彼女の話を説明しよう。
ん?ああ、うん。その通り。僕はこの夢の内容を全部把握しているよ。
何せ此処は僕の家で檻だ。
さあ、そんな事はどうでも良い。彼女の話に戻ろう。
彼女はね、まあ要するに『将来の夢』の話をしているのさ。
幼稚園で、と言うか町の催しでそう言うイベントがあってね、彼女はそこで沢山の友人の『将来の夢』を聞いた。そして幼いながら思った、『自分は将来何になろうか』と。
恐らく生まれて初めてこの命題に当たったのだろうね。他の人の様にそうそう即断で『御姫様』とか『大魔王』とか『女神様』とか決めれるわけも無く、少女は悩み、悩み、悩んだ挙句、大好きなお父さんに相談する事に決めた訳だ。
お父さん。
そう、少女の前に立っているのは彼女の父親だ。青いスーツをピシリと着こなしたこの男は、鋭いガラス細工の様な目を細め、娘の王様だの宇宙大帝だのトンチキな言葉の飛び交う『相談』を真剣な顔で聞いている。
本当に真剣な顔だろう?あれは嘘じゃないんだ。本気だよ。彼はいつもそう、相手が何歳だろうが何だろうがいつもあれだけ真剣だ。例えば郵便局を通った時、突然ポストが投函口を蠢かせ『背中が痒いんです』と訴えて来たなら、至って平然と背中を掻いてやった挙句、今後背中が痒くなった時に向ける対策について相談に乗りかねない。そんな男だ。
まして今の相手は『大切な娘』だ。彼は今、真剣だ。真剣に『娘の人生』を考えている。
そこに嘘は無い。微塵の嘘も無い。覚えて置いて欲しい。
彼は本気で『少女の幸せ』を考えている。
どうか忘れないで欲しい。それが、それこそが……
『……カオリ、其処を御覧なさい』
男はようやく口を開き、少女の傍らの地面を指差す。
少女はしゃがみ込み、父親に示された地面を見る。
其処には蟻の行列がある。
『この蟻達が何をしているか、わかりますか?』
『……?』
少女は首を振る。
『これ等は、女王蟻の為、巣の為に餌を運んでいるのですよ』
『……エサ?ごはん?』
男は頷く。
『そう、彼らは働き蟻。です。己に課せられた仕事をしているのですよ』
『……しごと?』
男は頷く。
『そう、仕事です』
我が意を得たりと、男は頷く
『彼らは仕事をしているのです』
プチン
奇妙な音が鳴る。
一糸乱れず列を成していた筈の蟻達が突然、蜘蛛の子を撒き散らす様に逃げ惑う。
男の指が、一匹の蟻を潰している。
『……パパ!?』
うろたえる少女。
『御覧なさい。カオリ』
男は、眉一つ動かさない。
平然と一匹の蟻を指差す。
其処にいる蟻は、逃げ惑いつつも、未だ飴の欠片を掲げ持っている。
『この蟻は及第点です』
『…?……!?』
少女には理解できない、父親が何を言っているのかが。
『蟻達は仕事をしていたのです』
父親は眉一つ動かさない。
『餌を運ぶと言う仕事を』
ガラス細工の様。綺麗だなと少女が羨んでいた父親の瞳には、何も映っていない。
『彼らはその仕事を放棄した』
プチン
プチン
プチン
プチン
プチン
プチン
プチン プチン
プチン
プチン プチン
プチン
プチン
プチン
プチン
プチン プチン
プチン プチン プチン
プチン
プチン プチン
プチン
プチン
プチン プチン プチン プチン
プチン
プチン
プチン
次々と潰されていく蟻達。
少女の顔は今や蒼白。
父親の顔は。
瞳は
ガラス細工等ではない。
少女は気づく。
ようやく気づく。
これはガラス細工などではない。
これは
不意に、父親が蟻を潰す手を止める。
そして指差す。
『この蟻は合格です』
指差された先には、仲間の死骸を踏み越え、餌を運び続ける一匹の蟻。
その蟻がどうして当たり前の危険を無視したのか、それは分からない。
ただ、男はそれを、愛する娘に、大切な事、を伝える為の例示とした。
愛する娘に。
大切な事を。
何よりも大切な事を。
少女の幸せを想って。
何も映さない筈のその瞳。
しかしその瞳には今確かに。
愛情が
慈しみが
思いやりが
『いいですか、カオリ。良くお聞きなさい』
普段の淡々とした声とは似ても似つかない。
少女が、聞いた事も無いほど優しい声。
仕事狂いの父親が、不意に見せた愛情。
愛情。
『……!…………っ!!……ゃ………ゃぁ………っ!!』
子供と言うものは思う以上に敏感で、そして聡い。
イヤイヤをして、父親を拒絶しようとしている。
涙を浮かべ、必死に逃げ出そうと。
『大好きなお父さん』が今どれだけ致命的な事を言おうとしているのか
『大好きなお父さん』が今どれだけ致命的な宣言を執り行おうとしているのか
『大好きなお父さん』が今どれだけ致命的な場所に自分を放り込もうとしているのか
いや、既に
当の昔に自分は
『其処の中心』に立っていたのだと言う事実に
気づいたから
気づいてしまったから
少女は逃げれない。
腰をペタリと地面に着け
全身はおこりの如く震え
涙は雨の如く滂沱と流れ
大好きなお父さんの言葉を
大好きな大好きなお父さんの言葉を
大好きな大好きな大好きなお父さんの言葉を
「カワイソウニネ。トックニテオクレナンダヨ。キミ」
『カオリ、貴女の腹中に居る蟲。それらはこの蟻と同じです』
先ほど指差した『唯一逃げなかった蟻』を指に摘み、父親は語る。
『蟲、使役される蟲。分かりますか?従うのではありません。仕えるのでもない』
逃げようと足掻く蟻。逃がさない。少女と同じく、蟻は逃げれない。
「クスキ家?アア、あそこニハゼッタイカカワラなイホウガイイぜ」
『従うのは奴隷だ。仕えるのは狗だ。それがいけない訳ではない。ですが我々は違う』
ゆっくりと指に力が込められて行く。蟻は、蟻はゆっくりと歪み、潰れて行く。
「別にオレだけジャナイサ。あイツラ《分家》ドモは、誰からモ忌避されテル」
『蟲に意思は必要無いのです。蟲に個は必要無いのです。蟲に自分など要らない』
プチリ。
「手強いかラ?いやいヤそうジゃなイ。そう言う意味じゃ寧ろアソコは落ち目サ」
『ただ命令の通り行えばよい。与えられた仕事をこなせば良い。単純な事です』
その目はガラス細工等ではない。
虫の単眼。
何も浮かばない筈のその瞳に、今、慈愛が溢れている。
「いやア、だかラさ。やツ等が嫌われてル理由ってのはモット単純ナンダよ。」
「つまリあイつ等は…」
『【使われる】事、其れが蟲に望まれる事。私達が取り組むべき事』
『ですからカオリ…』
イヤダ、ヤメテ。ヤメテヤメテヤメテ!ヤメテヨパパ!!
オネガイダカラ、オネガイダカラオネガイダカラおねがいだからお願いだから!!!
「おぞましいんだ」
『貴女も、きっと、そんな立派な【蟲】にお成りなさい』
「カワイソウニネ。トックニテオクレナンダヨ。キミ」
──────────────ブチン──────────────
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
さて、真っ暗だね。
困った物だ、折角の見物が最後の最後で停電とは片手落ちそのものだよ。
ああ、すまない。本当にすまないね。『彼女』が目を覚ましてしまったんだ。もう僕にはどうしようもない、あの後の展開はどうか君の想像力で補って欲しい。
ん?どうしたのかな?そんな顔をして。
フフフ、この見物はひょっとしてお気に召さなかったのかな?だとしたらとても残念だ。
僕などは最高に傑作な喜劇だと思って……
おっと、止めてくれ。すまない止めてくれ。気を悪くしたなら謝る。
ごめんなさい。どうか拳を収めてくれ。この通りだよ。
これはしたり、すっかり気分を損ねてしまった様だね……。
ま、でも安心し給え!どうせ此処での記憶は残りやしないんだから。
気分の悪さもスポーンとどこぞの楽園あたりに吹っ飛んで行って……
って、何を驚いているんだい?当たり前の話だろ?
これは夢だぜ?君は夢の記憶がそんなに長く残ると思っているのか?
ましてこれは君の夢じゃない。ぉ、彼女の夢だ。
目が覚めればあっと言う間に夢が幻、霞と消える運命ってね。
何で彼女の夢を君が見ているかって?
ははん。そんな事にゃきっと大した意味はないさ。彼女と友達だからとか、知り合いだからとか、心配してたからとか、前世の因縁だとか、知らぬ間に髪の毛が体にくっ付いてたからとか、好きなように推測するがいい。
ああ、でも最低条件は一つあるね。
手前、どっかで彼女の書き物を読んだんだろ?
その辺の紙切れに殴り書いた、輪ゴムで留められた、送付する気のサッパリない
あの有名無実の定時報告書を。
其れ位かね。其れ位さ。
さあ、君も帰り給え。目を覚まし給え。
此処は俺の家で澱だ。手前が何時までも居るべき所じゃない。
ヒャハハ、つーかいい加減起きねえと授業に遅れちまうぜ?
そして全てを忘れろ。
忘れな。忘れてくれ。忘れやがれってんだ。
それじゃあな
あばよ。
……
……あ、あと……最後に………さ、ええと……その……
ありがとう
《そう言って、少女は気まずげに、はにかむ様に、淡く、儚く笑った》
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