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適当な紙切れに乱雑な字で書かれ、輪ゴムで適当にまとめらて居る紙束。入学以来一度も送付されていないらしい……
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此処のイベントの参加作品な。

例に寄ってアンオフィ全開なんで、
IF小説を楽しめないって人は見るの禁止な。

ちなみに題名は借り案で、今他に良いのがあるかないか考え中。
その道出演者全員の許可を取らなきゃ行けないから、
ソレまでにノーンビリ考えるぜー。
つーか不許可を食らったら改稿だしな!!

尚、大将から「詰め込みすぎ」とツッコミが来て、かつ俺自身確かにそーだと思ったので、
忠告に従って岩崎の姉御のシーンは丸々別の話に移動する事にした。
大将のアドバイスに感謝だ。





///////////////////////





【20XX年 封鎖特区 鎌倉】


“教団”本部、第1作戦室。通称『獣の間』

普段、この部屋は使われるが無い。
何故なら、この部屋は教団能力者部隊『黙示録の獣(リヴァイアサン)』の作戦会議の為の部屋だから。
相互の仲が悪く、“宗主”の直の指令による個人活動か、さもなくば独断専行が大半である彼らがこの部屋を使う事など殆ど無いのだ。

しかし今日だけは、その埃を被った部屋に入室者があった。

「やれやれ、本当に掃除すらしていないのですね」

優雅な仕草、白磁の肌に金の髪。
『黙示録の獣(リヴァイアサン)』が一人、アーバイン・シュッツバルト。

「…此処は“宗主様”のお部屋に近いですから。胡乱な者を近づける訳には行きません」

続いて入ってきたのは、同じく“銅”。
舞い散り出した埃を不愉快そうに払いながら、後ろ手にパタンと扉を閉める。

「信用が置ける位此処が長い兵は、そもそも“宗主”の部屋の近くになんて行きたがらないしね」

少し乱暴な仕草で扉を開け直し、言を継いだのは“道化師”。
真っ先に席にドッカと座り、後に自分が居る事を知った上で扉を閉めた“銅”に剣呑な視線を向ける。

「成る程。道理ですね」

そんな“道化師”と“銅”の間のピリピリとした空気を気にする様子も無く、アーバインは納得の声を上げながら会議用の長テーブルの上に紙束をドンと置いた。
撲殺用の鈍器に使えそうな厚みのソレは、どうやら書類の束の様だ。

「……今、その書類何処から出しました…?」

「……さっきまで確かに手ぶらだったと思うんだけど……」

「さて、早速ですが私の受け持つ『仕事』の紹介がてら、貴女方にこの資料をお渡ししましょう。御笑覧あれ」

少し毒気を抜かれた様子で向けられた“銅”と“道化師”の疑問を、微笑一つで完全にスルーしながら、男は二人に書類を一束ずつ手渡す。
無視された事、そして渡された束の厚みに二人は思わず顔を顰めた。
だが、同僚である筈にも関わらず今まで一度も顔を合わせる機会の無かったこの男の『仕事』に、純粋に興味を禁じえなかったのだろう。渋々と言った風情ながら、大人しく資料を捲り始める。
やがて…


「「…………!?」」


道化師”と“銅”の目の輪郭が、一様に正円を描いた。
絶句したまま顔を上げ、書類の山の向こうで微笑む金髪の男を見る。
涼しい顔だ。その長い睫毛を持つ目から目を反らし、再び書類に目を落とす。

パラパラパラ……

暫くの間、書類を急いて捲る音だけが『獣の間』に響いた。

二人が驚くのも無理は無い。
何となれば、その分厚い書類に記載されていたのは封鎖特区鎌倉に存在する『要注意人物』達のデータ。能力、略歴、昨今の動向に加え、言動から推察される目的、予測される奥の手に関してまで言及されている綿密な調書だったのだから。


“紅揚羽”や“謎の能力者”との戦闘内容から会話に至るまでの、綿密な情報と考察を読み、“銅”が口の中で小さく悲鳴を上げる。

『擬態』によるレジスタンス崩壊の実績比較と、更なる効率化に関する懸案レポートを読み、“道化師”がギリと奥歯を鳴らす。


「ああ、そうそう、私が今まで本部に顔を出さなかった理由ですが、これは単純に勤務地が違っていたからです」

驚愕冷めやらぬ二人の様子を、誇る所か気にしている様ですら無い笑顔で眺めながら、美男は飄々と言葉を紡いだ。

「ですが先日、勤務地のオオフナ・エリア支部の社屋が崩壊してしまいましてね。恥を忍んで本部に転がり込んで来た次第なのですよ」

いやあ、お恥ずかしい。
そう言って男は小さく舌を出して頭を掻いてみせる。童子の様なその仕草は、その美貌に意外なほど似合っていた。

「……オオフナ・エリア……」

「……確か、支部と有力レジスタンスとの交戦が続いていた…」

二人がそれぞれに記憶を掘り起こしながら呟く。

…そのエリアに存在していた反教団組織は、規模も大きければ指揮も錬度も高く。エリア自体が教団本部から遠い位置にある事もあり、教団と長く一進一退の攻防を繰り広げていた。つい先日、唐突に壊滅するまでは。

その顛末はこうだ。

レジスタンスは激しい戦いの末、教団のオオフナ・エリア支部を陥落せしめ、その本拠を奪い取った。
本拠の中には当然、教団が独自に開発した様々な兵器が保存されている。今後の戦いを有利にしてくれるであろう、それら戦利品を得るため。そして戦い抜いた戦士達の疲れを癒すため。レジスタンス軍は勝利に沸き立ちつつ教団支部の中に入る。
しかし、彼らを待っていたのは戦利品ではなく、大量の爆薬兵器だった。
爆発は、支部の周辺に待機していた者達にまで甚大な被害を与え、レジスタンスの軍は総崩れを起こし……間髪入れず強襲を仕掛けた教団軍により、あえなく止めを刺された。
……その時点でレジスタンスが得ていた情報では、教団軍はその時既にキタカマクラ・エリア迄撤退していた筈なのに、だ。

偽情報による二重の罠。
それこそがオオフナ・エリアの反教団組織を一夜にして滅ぼした“悪夢”の正体。

『本隊から遠いエリアですら教団は最凶を誇る』
そんな絶望を鎌倉全土に響き渡らせたこの『作戦』……知らぬ者は皆無である。

……しかし一方で、『実際にその作戦を立てた者』『大量の爆薬兵器の在庫と搬入の情報を完璧に偽装、秘匿していた者』『レジスタンスに教団軍完全撤退の偽情報を流し、信じ込ませた者』。それらが一体誰なのか、それを知るものは居ない。

……いや、極少ない。

「と言う事で、本日付けで教団能力者部隊『黙示録の獣(リヴァイアサン)』の本部に配属されました」

たった今『極少数』のカテゴリに入り、戦慄とも警戒ともつかぬ激情を込めて己を睨む二人の“獣”の、つい先ほどまで詰まらぬ言い争いから殺し合いを演じていた二匹の猛獣の凶眼を、至って涼しい顔で受け流しながら、男は飄々と『自己紹介』をこなす。

「担当分野は『情報』。いわゆる裏方役です」

それは、在りし日の“傭兵団”。ひいては“学園”で彼が自認し、こなしていた仕事そのまま。先ほどから浮かべ続けている涼しい表情も、飄々とした態度もあの頃のまま。

「“黄金蝙蝠”と、お呼び下さい」

暴君“宗主”の下、無辜の民に数多の死と災厄を撒き散らす今。

一般人を守る為にゴーストと戦っていたあの頃と、何一つ変わらぬ物腰で。



「どうか、以後よろしく」


“黄金蝙蝠”は、優雅に一礼をして見せた。



*   *   *   *   *



 かわらぬとことが

よいことだというのか?

もしそうだとしたら

おまえはどうしようもないおろかものだ


たしかに

かわってしまったことはかなしいことだ

くるってしまったことはおそろしいことだ


だが

かわってしまわなくとも

くるっていないとはかぎらない

つまり


さいしょから ───



*   *   *   *   *



「…と、以上が“白夜”が私達『獣』の仲間に入った経緯です」

“黄金蝙蝠”はそんな言葉で説明を終了し、映写機の電源を落とした。
壁に投影されていた画像がプツリと音を立てて消える。

「何か、ご質問はありますか?」

その言葉に“銅”と“道化師”が同時に手を上げる。

「「あんた(貴方)さっき、その映写機を一体どこから出し…

「他に何かご質問は?」


“黄金蝙蝠”は即座に笑顔でキャンセルした。

「……畜生どんなトリックを使ってやがるんだ……おい“娼婦”!あんた相手の観察が特技だろ、何か気づかなかったの?」
「早くも痴呆が来ましたか?私は“銅……いや、まあそれは兎も角、サッパリ分かりませんでした…」
「ああ、もうこの役立たず!くううう……気になって仕方ない……」
「しょうが無いでしょう!?……取り合えずあの人は二つ名を“青色狸”に変えるべきだと思…

「他に何かご質問は?」


“黄金蝙蝠”は再び笑顔でキャンセルした。

“銅”と“道化師”は、暫くの間その飄々とした顔を胡乱な目で睨んでいたが、やがて渋々と近付け合って居たそれぞれの椅子の位置を戻し、口々に先ほどとは別の質問を紡ぐ。
一様に眉を顰め、確認を取るような口調で。


「映ってた“宗主っぽいモノ”、一体何処の誰だ?

それとも合成映像ですか?だとしたら良く出来てますけど」


……。
然しもの“黄金蝙蝠”にも、この返答は予想外だったらしい。
美男は少しキョトンとした顔でフムと呟くと、映写機の電源を付け直した。

一体どうやって、どんな手段を使って収集したのだろう……“白夜”が本部に進入し、宗主と対決し敗北するまでの一部始終が映写されて行く。

「この映像の、どの点がおかしいのでしょう?」

「「“宗主”の言動全部」」

即答だった。

「……まあ、長らく支部に居て、“宗主様”の言動を直に見ていなかった貴方にはピンと来ないのかもしれませんね……」

小さくため息を付き、“銅”が肩を竦める。
隣の“道化師”も又、半眼で頷く事で同意を示した。

「…まず、まっとうに交渉してるのがおかしいです。いえ、会話が通じてる事が

「視界内の肉塊が服従以外の言葉を吐いたなら、二音節内に粉々に砕くのが“宗主”だ

二人は相次いで口を開く。

「…しかも人質って……そんなつまらない事をほんの一片でも考慮に入れる様なウェットな人なら、私殺せますよ?その隙を突いて

「そもそも、おめおめと人質に取られた兵を生かして置く理由が無い。“白夜”が人質宣言をし終わる前に敵ごと皆殺しにしてなきゃおかしい

……『味方ごと』では無く、『敵ごと』ですか……
と、“黄金蝙蝠”が思わず嘆息の様な声を漏らした。

「後、全体的に攻撃の威力が低いにもほどがあります。しかしあの人が手加減などする訳が無い」

「『“宗主”が戦闘をしたのに建物が平らになっていない』ってだけで異常事態よ。バレットレインで建物が全壊しないなんて、そんな馬鹿な」

ひょっとして『あの日』とかでしょうかねー。
そんな戯言を吐きながら、“銅”が皮肉な笑みを作る。
流石“娼婦”はジョークも下品ね。
そんな嫌味を吐きながら、“道化師”が手をヒラヒラさせる。

「…で、何よりも『殺しきるのも作り直すのも面倒』?前代未聞の妄言ですよ、それ

「よりにもよって『後の事』なんて考えるわけ無いだろ。『気に入らない事が一片でもあったら即座に砕く』何の配慮も思考も無く。それが“宗主様”だ

まるで台本でもあるかの様に、二人の言葉に淀みは無い。
それは取りも直さず、この二人の『“宗主”の認識』が寸分違わず完全に一致している事を示していた。

「この教団本部は過去2回壊滅してます。【それを成したのが『誰』なのか】、御用意なされた資料を読み返せば書かれている筈でしょう?」

「“宗主”に会話は通じない。一方的に言いたい事を言う為だけにあの口と耳はある

「まあ、交渉の結果“白夜”が絶望に泣きじゃくったのなら、ああそれが見て見たかったのかと納得出来ます、が」

「その上でジックリ3時間位かけて殺した上で、無理矢理再構築させたのなら、成る程と頷けもするが、ね」

何で今更こんな分かり切った事を言わなくちゃならないのだ。
そう言わんばかりの苦い顔で首を振り、二人は声を揃えてキッパリと断言した。


「「あの【癇癪を起こしっぱなしの赤ん坊】に理性なんてある訳が無い」」


“黄金蝙蝠”は、暫くの間沈黙していた。
口を閉ざしたまま、“銅”と“道化師”の顔を見たり、言われた事を吟味するように顎に手をあて考え込んだり、書類を捲って何事かを確認したりを繰り返す。そうやって、様々な要素を多角的に『確認』しているのだ。

…やがて、その頭中で納得の行く結論が出たのだろう。
ウムと頷き、スッキリした顔で、薄っすらと笑みさえ浮かべて、嬉しそうに一言。


「貴女達、意外と仲がお宜しいのですね」


二人は一斉に椅子を投げつけた。



*   *   *   *   *



手当たり次第に周辺の物を掴み、全力で投擲しながら…
…頭の片隅で、“ ”は思う。

『今がチャンス、なのかも知れない……』

先ほどアレだけ全力で否定したものの、本当は彼女には心当たりがあった。
“白夜”に相対した“宗主”の、丸で『      』と呼ばれていたあの頃に戻ったかの様な、理性的な言動に。その理由に。

『……詠唱銀中毒』


本来は能力者に死と絶望をもたらすだけの病。
発祥したならば待っているのは発狂、死亡、ゴースト化。
しかし……

“嵐公女”の【今を映さない】笑顔が脳裏を過ぎる。
“宗主”の死と恐怖と絶望を撒き散らす笑顔が目の裏に映る。

『それを超えた……或いは『染まり切った』者には……』

力をもたらす。

だが、それが病である事に違いは無い。
実を言えば、これまでにも“宗主”が力の行使を控えているらしき所を見た事がある。
ただ、抑えていても尚、“宗主”の力は次元が違う。だからそれが目立たない。
今回は“白夜”と言う“埒外の存在”と相対した為、一際如実に現れただけだ。

恐らく、ソレは…

『……病状の過度な進行を抑える為』

…では無いだろうか。
だとしたら……今こそが己の『目的』を叶えるチャンスだ。

……だが、しかし……それでも……
今の己の実力では、きっと届かない。

『……未だ……?』

己の片腕。
数刻前の『おしおき』によって出来た裂傷を。
傷口に滲む己が血潮を見ながら、“ ”はその顔を焦燥に歪める。

『……未だなの……!?』

詠唱銀中毒は、感染する場合がある。
例えば『体液の交換』で。

そしてこの病は、時に、『力』をもたらす。

だけど、恐らくは相性や適正があるのだろう……
“宗主”の、恐らくは鎌倉で随一であろう濃度の詠唱銀に夜毎触れても……

“ ”の血は、未だ、赤かった。

『…早く……早く……!』

……どうか…お願いだから…早く……


コノ心ガ壊レテシマウ前ニ。



*   *   *   *   *



「さて、次に“白夜”のスペックについてですが」

滅茶苦茶に散らかった『獣の間』の中。
何事も無かったと言わんばかりの涼しい顔で、“黄金蝙蝠”は言った。

「…ぜはー…と言うか、アレだけ暴れたのにあの人の持参書類だけ全く乱れてないのは……ぜはー…どう言う…理不尽なのでしょう……」

「…ひゅー…ひゅー……言うな……何もかも今更だ……!」

「何せ彼もまた私と同じ新しい『仲間』ですからね、その能力の把握は置くべきでしょう」

乱れた呼吸をそれぞれの呼吸法で整えよう様としている二人の愚痴を、例に拠って完膚なきまでスルーしつつ、“黄金蝙蝠”は説明を続ける。

「各能力の内訳は、お手元の書類のP57をご覧下さい。私は総論を説明しましょう」

程なく呼吸を整え終わり、不満そうな顔で居住まいを正す二人を見ながら、ペラリペラリと書類を捲る“黄金蝙蝠”。


「“白夜”のスペックは、端的に言いましてデタラメです」


“銅”が、片眉だけを器用に上げた。
“道化師”に至っては露骨に顔を顰めて見せる。

「…デタラメ?」

「……凄く高いって意味、ですか?」

口々に問い正す。
映像の中で、只でさえ普段に劣ると感じる“宗主”に打ち負かされていたのを観た、その先入観だろうか。納得がいかないと言う風情の二人に、“黄金蝙蝠”は自信に満ちた表情で頷いて見せ、主張を続ける。

「ええ、何と言っても総キャパシティがケタ違いです」

「「…キャパシティ?」」

俄かにはピンと来なかったのだろう。“銅”と“道化師”の言葉が綺麗にハモった。
一瞬固まった後、不愉快そうに睨み合う二人を、“黄金蝙蝠”はやけに穏やかな微笑で眺めていたが……二人の凶眼が自分に向き始めた頃になって説明を再開する。

「つまり、一つに特化はしてないが手数が多く、その総量がデタラメに多いと………そうですね、例えば他の言い方ですと、和マンチとも言います」

「……いや、言わんとしてる事は伝わったけど……」

「……その言い方はちょっと……」

今度はドン引きだった。……二人揃って全く同じ仕草で。
穏やかな微笑に加え、今度はウンウンと首肯までする“黄金蝙蝠”。

「…兎も角!もう少し具体的に言えないんですか」

「そうですね、では具体例を…」

誤魔化す様にダンと机を叩く“銅”にアッサリとそう応じると、“黄金蝙蝠”は再び書類をパラリパラリと捲り始めた。


「例えば貴女を撤退させた“紅揚羽”。彼女は再生性能こそ高いですが、攻撃性能に関してはどうしても見劣りする様です」

パラリと書類を捲る。

「が、“白夜”は同等の再生能力と丈夫さを持ちながら、攻撃性能に関しても充分すぎるモノを持っている。何せ数が数ですから」

恐らく貴女では“白夜”を殺せないでしょうね。どれだけ見事に不意を打とうと、致命的な一撃と言うものをこの存在には与えられないのですから。
…そんな事を事も無げに“銅”に宣告してのけながら、更にパラリと書類を捲る。

「“ヨロズ”……葛葉いなりは私とは微妙に違う間口の…『現場単位の情報戦』、即ち密偵の業と言える技術に置いて高い性能を発揮します。が、如何せん単騎である事が故、その活動には限界がある」

パラリ

「逆に私は主にフィクサーの立場に立っていますので、格末端に命令を伝達する事で活動の広域さには自信があります。ですが現場に居ない分、伝達に掛かる時間のブランク等、即応性の低さと言う弱点がどうあっても生じます」

事件は会議室で起こってる訳ではありませんからね。
…そんな戯言をノンビリと挟みながら、更にパラリ。

「しかし“白夜”はその高い知性と無限に増える『自分と完全に繋がった手駒』を使う事で、無数の作戦のマルチタスクを可能とすると同時に、その即応に関しても限りなく高性能を誇るでしょう。それは特化型の私や葛葉様からは若干下回るかも知れませんが……有用性で言うなら、ね」

パラリ

「“レギオン”。“宗主”様が面白半分で使い潰してしまいましたが……あの【軍団としての巨大さ】は比類無き物です。が、如何せん巨大すぎて機動性や隠密性に欠けるにも程がありました」

そもそもブレインたる核が全然正気でないのでそれ以前の問題とも言えます。
…そう言い、肩を竦めながら、更に書類を捲る。

「比べてみるに“白夜”はどうでしょう?あの存在は知っての通り明晰な理性と作戦構築能力を有しています。……加えて何より、“百夜”と呼称していた手駒達。教団での行動を見る限り、あれ等はその場で自在に召還出来る様ですよ?これはもう埒外の強み以外の何者でもない」

パラリ


「つまり、有用な長所は星の数。出来ない事は殆ど無く、それで居て弱点はほぼ皆無。と言うのが“白夜”の能力スペックの総括といえます」


パタン
最後に書類を閉じ。“黄金蝙蝠”の説明は終わった。

「……成る程ね」

“道化師”が不愉快そうに嘆息する。

「……バランスブレイカー、ですね。“宗主様”が自由意志を認めた理由が良く分かります。制御などせずとも充分、“白夜”は戦況を引っくり返すでしょう」

“銅”が何事かを考え込みながら、言葉を選ぶようにして呟く。

「ええ、その筈……なのですが…」

“黄金蝙蝠”が煮え切らない相槌を打つ。


……ん?

「…何か、問題でも?」

“銅”が確認する様に問えば、“黄金蝙蝠”は初めて少し深刻そうな色を見せると、申し訳なさそうに首を振った。

「……実は先ほど、その“白夜”の消息を見失ってしまいまして…」

少しの間、沈黙が落ちる。


「…ふっ…く、くく……あははははは!」

堪え切れなくなった“道化師”が爆笑をし始めた。
“銅”も又、少し呆れた様な顔で頭をポリポリと掻く。

「あれだけ粋がった事を言って置いてその体たらく!?あはははは!飛んだ片手落ちじゃない、これは傑作だわ!」

「いやあ、面目ない…」

真っ向からの罵り声に、“黄金蝙蝠”は特に言い訳をするで無く、気まずそうに会釈して見せるだけだった。

「……ええと、ではつまり、“白夜”に動向を把握している事に気づかれた、と言う事ですか?」

「いえ、それは無いでしょう」

しかし、小さく嘆息しながらの“銅”の問いに対しては、即座に否定を返す。

「……?」

「そうですね。先ずは私のトレースに関するスタンスから説明しましょう」

怪訝そうな顔をする“銅”に対し、指先で軽いジェスチャーをしながらそうの給った。

「本拠である教団内であれば、当人に気づかれずにその行動を把握出来るのは当然です。寧ろその程度の事も出来ないのではお話にならない」

何せ己の縄張りなのですから。
首を傾げた“銅”の顔を真っ直ぐに見ながら、そう請け負って見せる。

「ですが外に出られてしまっては、完璧な把握など不可能。ですから私は最初から無茶はせず、一定期間毎にその大まかな動向と位置を確認して、推察により間を埋める手段を取っております」

精度は下がりますが、その分気づかれる危険はずっと低い筈なのですよ。
そう、言葉を結ぶ。

「でも実際見失ったんでしょ?それはじゃあ何でなのよ?」

“道化師”のその疑問は、至極もっともな物と言えた。

「……それが、周辺の情報収集手段が、一瞬で全て沈黙しまして…」

「「一瞬で?」」

又二人の声が同調したが、今度は流石にからかう気にはならなかったのだろう。“黄金蝙蝠”は厳かに頷いて見せ、書類をトンとテーブルに置く。

「…最後に“パレード”に接触した所までは確認できたのですが……」


「“パレード”ォ!?」


突然、弾ける様に椅子を蹴り、“銅”が立ち上がった。

「何でわざわざそんな事するんですかそのヒトは!」

「…い、いえそこまでは流石に何とも……まあ、現状敵対する中で最強の戦力を持つ存在ですし、一度直に見て置きたかったのでは?」

突然 “銅”が見せた激しい反応に目を白黒させながら、“黄金蝙蝠”が予測を口にする。
傍らで“道化師”も又、少し驚いた顔で“銅”の剣幕を眺めていた。

「“パレード”は何処かに向かおうとしていたのか、直の部下である“紅揚羽”一人だけを連れて個人行動をしておりました。ですから、ひょっとすると偶然の遭遇かも知れません」

それに、と呟くと書類を手に取り、確認を取りながら補足を入れる。

「最後に確認した時点では両者間に500m以上の距離がありましたから……」

「500m……では、お互い未だ相手には気づいてなかったのですか?」

苛苛した仕草で更に細かい確認を取る“銅”。
刺激するのは得策ではないと判じ、“黄金蝙蝠”は少し慎重に言葉を返す。

「いえ、“パレード”の方は感付いていた可能性が高いでしょう」

「……ほう」

“銅”の片眉が跳ね上がった。
それは何故?と問う無言の重圧に、“黄金蝙蝠”は桑原桑原と肩を竦める。

「機器が沈黙する直前、彼女はフレイムキャノンを発射したのですよ。……小さな火弾でしたし、そもそも20mの射程圏内には彼女の部下以外何も存在しておりませんでしたから……恐らく威嚇射撃だったのだろうと…

─── ガタン ───

その言葉を遮るように、そんな音が響いた。
ギョっとした“道化師”と“黄金蝙蝠”の視界の先、“銅”は一変脱力して椅子に座り込んでいる。
そのまま額をゴトンとテーブルに落とし、長い長い溜息を吐いた。
ようやく合点が言った、と言う様に。妙に疲れた仕草で。


「……“黄金蝙蝠”様……貴方、“宗主様”の実力が未だ実感できてませんよね?」


目と鼻の先にテーブルを付けたまま、唐突にそんな事を聞いてきた。

「…はあ、未だ書類以外の形では見た事がありませんからね。どうしても実感は不足しているやも知れません」

戸惑いを深くしながら、それでも一応は真面目に返答を返す“黄金蝙蝠”。
対する“銅”は億劫そうに顔を上げ直すと、冷め切った声色でこんな言葉を紡ぐ。


「じゃあ、丁度良いです。“宗主”じゃなくて“パレード”ですけどね、同格とされてる訳ですから……先ずはそっちで『あの人達がどんなシロモノ』なのか、実感して下さい」

作戦室の片隅にあるPC機器を指差し、突き放す様に一言。


「衛星写真を」



*   *   *   *   *



「…それで…他に何か議題はある?」

“道化師”が問うた。
ガリリと爪を噛み、忌々しげにディスプレイを睨みつけながら。

「…ええ、“レギオン・ベビー”の拡散と増殖について少し……あぁ。煙草、良いですか?」

“黄金蝙蝠”が答えた。
呆れ果てた様な、軽く疲弊した様な顔で、ディスプレイを眺めながら。

「…ま、そりゃーコメントしよーが無いでしょーねー」

“銅”が呟いた。
何とも言えぬ複雑な表情で、ディスプレイを見据えながら。

衛星写真に写された、エノシマ・エリア広域埋立地帯。

その大地に、フレイムキャノンの一撃が作った。

たった一発の火球によって穿たれた、


直径約3kmのクレーターを。


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